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東京地方裁判所 昭和29年(タ)32号 判決

原告 富岡美紀子

東京地方検察庁検事正

被告 柳川真文

主文

原告がアメリカ合衆国人亡キャアビン・エイチ・プライン(Calvin H. Prine 出生地アメリカ合衆国テキサス州、一九一八年一二月一一日生。)の子であることを認知する。

訴訟費用は、国庫の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一、原告の生母富岡芳子は、昭和二十一年十月頃から当時進駐軍軍属であつたアメリカ合衆国人である訴外亡キャアビン・エイチ・プライン(出生地、生年月日は主文に記載のとおり。)と事実上の婚姻をして同棲し、爾来、同訴外人が昭和二十四年九月帰米するまで同棲生活を続け、その間に原告を懐胎し、昭和二十三年三月六日原告を分娩した。そこで原告は東京都千代田区神田錦町三丁目十二番地二の母の戸籍に父の欄は空白のまま入籍している。

二、右訴外亡キャアビン・エイチ・プラインは、原告が同人の子であることを認知するため、昭和二十四年三月十七日認知届を千代田区長宛提出したがその記載の不備を理由に受付を却下され、その記載を完備するため準備中であつたところ、同人は、前記の如く帰米し、そのまま昭和二十六年十一月十二日アメリカ合衆国カリフォルニヤ州において死亡したので、本訴請求に及んだと述べ、立証として、甲第一ないし第五号証、同第六、七号証の各、二を提出し、証人富岡政子の証言及び原告法定代理人富岡芳子尋問の結果を援用した。

被告は、原告の請求を棄却する旨の判決を求め、答弁として原告主張の請求原因事実は知らないと述べ、

甲第一ないし第五号証、同第七号証の一、二の成立を認め、同第六号証の一の成立は不知、同号証の二のうち郵便官署作成部分の成立は認めるがその余の部分は不知と述べた。

理由

一、公文書であるからいずれも真正に成立したものと認められる甲第一号証(死亡証明書)、同第二号証(戸籍謄本)、証人富岡政子の証言及び原告法定代理人富岡芳子の尋問の結果からいずれもその成立を認められる同第五号証、同第七号証の一、二並びに証人富岡政子の証言及び原告法定代理人富岡芳子の尋問の結果を総合すると、原告の母富岡芳子が昭和二十一年十月頃アメリカ合衆国人である訴外亡キャアビン・エイチ・プライン(出生地、生年月日原告主張のとおり、)と事実上の婚姻をして同棲し、その後同訴外人が昭和二十四年九月帰米するまで同棲生活を続け、その間に右富岡芳子は右同棲の結果原告を懐胎し昭和二十三年三月六日原告を分娩したこと、原告はその後東京都千代田区神田錦町三丁目十二番地二の母の戸籍に父の欄は空白のまま入籍したこと、右訴外人プラインは昭和二十四年三月十七日千代田区長宛に原告を認知する旨の届出をしようとしたが、その届出書の記載に不備があるため受理されなかつたこと及びその後右認知届がなされないまま、同人は、昭和二十四年九月帰米し、同二十六年一月十二日アメリカ合衆国カリフォルニヤ州で死亡したことがそれぞれ認められる。

したがつて、原告が同訴外人の子であり、かつ、同訴外人が原告を認知しないまま死亡したものといわなければならない。

二、原告が、日本国民であることは前記認定の事実から明らかであり、訴外人亡キャアビン・エイチ・プラインがアメリカ合衆国テキサス州で出生した同国々民であることは、弁論の全趣旨に徴し明らかである。そして法例第十八条、第二十七条第三項によれば、認知の許否その他子の認知の要件は、認知各当事者の本国法を結合的に適用することとなり、死後認知については、認知者の本国法とは死亡当時認知者が属していた国の認知当時の法律をいうものと解すべきであるところ、本件において、原告がその父であると主張する訴外亡キャアビン・エイチ・プラインの本国法、すなわち、アメリカ合衆国テキサス州の法律には、子が父の死後において父に対し強制認知を求めることを許容した規定はなく、また認知の法律関係については、反致の規定も存在しないけれども(米国父子関係法規、合衆国労働省少年局刊行。家庭裁判月報第六巻第二ないし第四号所載参照)、嫡出でない子が法律上自らの父を定めること即ちその戸籍に父を記載されることは、その子にとつて重大な意義を有することであり、このための唯一の方法である認知の訴を許さないことは、法例第三十条にいわゆる公序良俗に反するものといわなければならないから、本件については前記のような本国法の適用はこれを排除し、日本国民法を適用すべきものと解するのを相当とする。

三、よつて、原告が訴外亡キャアビン・エイテ・プラインの子であること及び同訴外人が原告を認知しないまま死亡したことは前記認定のとおりであり、かつ、同訴外人の死亡の日から三年以内である昭和二十九年二月九日に本件訴が提起されたことは当裁判所に顕著であるから、日本国民法によれば、原告の請求は、理由があるからこれを正当として認容し、訴訟費用の負担について人事訴訟手続法第三十二条、同第十七条の規定によつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加藤令造 裁判官 間中彦次 裁判官 乾達彦)

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